日本行動計量学会について

2018.07.02更新

理事長の挨拶

拡張し続ける学会を目指して

植野 真臣

 このたび日本行動計量学会の第9代理事長を務めることになりました。学会の価値をさらに発展させられるように、皆さまのご協力を得て全力を尽くしていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 私が本学会に入会した1980年代は、多変量解析が注目され、因子分析や数量化理論の実践研究の中心学会として大いに賑わっていました。しかし、1990年以降、世の中はインターネット社会を目指すべくインフラ構築が社会的命題となり、当時ほとんど使い物にならなかったインターネット上にWebデータを蓄積していくことが中心的命題になっていきます。世の中の投資の多くが、この方向性に向かいつつあり、様々な新しい分野が勃興してきました。世の中の人々の関心は、データの解析ではなく、インターネット上に蓄積できるデータ構築(Web上のあらゆるサービスの提案と構築)に集中していきました2000年以降、インターネット上に大量に蓄積されたデータをいかに有効活用するかが世の中の重要な課題となっていきます。ここでは、膨大な量の変数を持つ大規模データから重要な知識を自動的に抽出したり、未知の変数を予測する技術が注目されてきます。特に、多変数データからの予測、分類は“ビッグデータ解析”と呼ばれ、数理モデルを中心にデータベースやアルゴリズムに関する人工知能分野、コンピュータサイエンス分野が中心になってきます。

 一方、行動計量学会はその後、構造方程式モデリングを中心にグラフィカル・モデリング、因果分析など今も注目される手法について、理論研究、実データを用いて現実現象の構造を明らかにする研究で重要な成果を残しています。

 しかし、学会で研究される手法、実践される応用分野は、学会発足時から見ると大きく縮約し、収束してきたように思います。この流れは、学会の閉塞化を招きかねません。

 以下は私が2005年に巻頭言で書いたことですが、再掲いたします。

「産業革命後のイギリスの没落は、当時新しく出現したテクノロジストを職工としてさげすみ、依然として物理学や数学のみを理工系の学問として取り扱ってきた新しい文化を受け入れる社会がなかったためであると考えられています。当時のイギリスの失敗を繰り返さないためには、伝統的でない新しいものを受け入れる文化を持っているかどうかがキーです。いや、受け入れるだけでなく、新しい分野を開拓していくべきでもあります。」

 データサイエンスがこれほど重要になってきた今日、本学会の重要性はますます増加していますが、まさに本会の立場も先の状況に似ていると考えられます。学会の役割はただ各会員の行った研究流通にとどまらず、潜在的な社会的インパクトを見抜き伝統的でない新しい考え方を受け入れ、その研究マーケットをそれぞれ開拓していくといった文化が学会に根付いていくことがまず重要であると考えられます。学会が個々の会員に学びや驚き、喜びを与え、メンバーを成長させる機能を持たねばならないことはもちろんのこと、学会自身が学習して拡張していく組織でなければならないのです。そうすることで、真に社会貢献できる組織となり、個々のメンバーも成長し続けることが可能になるのだと思います。本学会は初代理事長である林知己夫先生が「データサイエンス」を最初に提唱された学会でもあります。林先生は「データサイエンスは、単に統計学、データ解析やその関連手法を統合した概念のみでなく、その結果も含む。データサイエンスの目的は、複雑な自然、人間、社会的現象をデータから様々な手法を用いて隠れた構造や特徴を発見することである」と述べられています。この意味でも、新しい統計学、データ解析やその関連手法を取り入れるだけでなく、幅広い分野にデータサイエンスを拡張していき、分野を横断した刺激ある学会に皆様と一緒にしていければと思います。

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